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インタビュー「先人に学ぶ」

山は発想しだい

三上幸夫さん(岡山県哲多町)

 岡山県哲多町の三上幸夫さんのマツタケ生産への探求心は尽きない。マツ枯れや近年の天候不順の影響を受けているマツタケだが、情報を公開し、地域の中心となって産地を支えようとしている。 

■採るから、作るマツタケへ
 三上幸夫さんはシイタケ栽培のかたわら、「採るマツタケから作るマツタケ」を目指して、マツタケが発生しやすいアカマツ林を整備してきた。瀬戸内漁業の「獲る漁業からつくる漁業」への転換に刺激されてのことだ。
 昭和45年、三上さんは最初にマツタケが出そうな所、約20㎡に地掻きなどの作業を行った。数年後アカマツの根元にマツタケが生え、「ここはマツタケ山にできる」と確信し作業を続けてきた。現在、この22aの面積に、24カ所の「シロ」を導くことができた。シロとは環状のマツタケ菌糸の塊をいう。
 現地に案内していただいた。ご自宅からは車で5分ほど。林道に車を止めて、幅1mほどの尾根道を上がる。程なく、周囲とは雰囲気の違う林に到着した。灌木が整理され、林内の見通しがよく利く。林床の堆積腐植が掻き出されている。この環境が、マツタケにとってもアカマツにとっても、生育に好環境なのだ。
「マツタケというのは非常に閉鎖的な作物。市場に出れば王様だけど、産地では生産者同士が誰が採ったともいわない。私のマツタケ山の作り方が、本当に良いのか悪いのかも分からなかった」
 三上さんは、これまで試行錯誤しながら施業を進めてきた。散水の試験を行ったこともある。
「水をやりさえすればマツタケが生えるというのは、産地の人の定説だったんじゃな(笑)」
 梅雨開けからマツタケが生えるまでに、600㎜の雨量があればマツタケに良いという情報で、毎月200㎜ずつスプリンクラーで散水してみた。スプリンクラーの水の飛散能力を、1m間隔においたコップに水を溜めることで調べたこともある。地掻きしたアカマツ林の地面は、なかなか水を吸わない。シロを傷めないように浅い溝をつくり、水を溜めるように散水したこともある。
 昭和56年から散水は5年続けたが、大きな効果はなかったそうだ。逆に豊作年の散水で、商品価値のない小さなマツタケがたくさん生えて失敗したこともあった。ただ、この時の散水試験は、「点滴によるマツタケ栽培」で実を結ぶのだが……。

■本当の価値を知る
 この地域のマツタケは、万印の木箱で農協から出荷されている。木箱はマツとスギ板で組まれている伝統のすかし箱で、三上さんが合間をみて加工し納めている。
「マツ材の木箱で出荷すると、マツタケの香りとマツ材の香りの相乗効果があって、より以上に商品価値が出ますよと進めても、そんなことをしなくてもミカン箱に入れて市場に持っていっておけば売ってくれるんだと耳を貸さない人がいる。どの大きさがいくらなのか、自分が作ったマツタケの本当の価値を知らないんです。僕は青色申告にしたから胸を張って、マツタケで何万円取れますよと言えます。人に教えるのに、隠したり、裏心があったりしていては、皆が付いてきてくれないし、マツタケそのものの未来が開けません」

■マツタケは柴掻き3年
 マツタケ発生環境整備の施業をする山は、林齢が30年生までのアカマツ林が適当だ。それで近くでマツタケがとれていることが条件。場所は尾根筋がいい。施業は①かん木を整理し、②柴(堆積腐植)を掻く。根気が必要な作業なので、ごく限られた面積から始めるのが適当だろう。
 灌木の整理では、アカマツの生育を阻害するような太い広葉樹は背丈ぐらいの高さで切断し、枝落としを行う。アカマツの近くで混み合っているような広葉樹は、抜き切りする。明るさの状況を見るために夏期に作業した方がいい。
「中断で切った広葉樹が箸を立てたようになる。林内にはぎらぎら日が当たる。これを見ると、みんなこんなことをしていいのかな、と疑問に思う」というが、それが三上さんの方である。
 風や日光が林内に入るようになったら、土が出るまで柴を掻き取り、裸地にする。太陽の光で、土壌の表面の雑菌を消毒するのだという。道具の熊手は特製である。掻き取った柴はすべて林外に搬出する。柴を1回掻いたから大丈夫ということではなく、3年間は継続しないと行けないそうだ。
 柴を掻くことでアカマツの細根の刺激にもなる。マツタケは、他のキノコや土中の微生物との競争に弱く、有機物の少ないやせた土地に暮らす。マツタケ菌は、マツの生きた根について「菌根」をつくり、マツから栄養をもらい、その見返りに土の養分を吸い上げて、水と一緒にマツに送り、共生生活をしている。

■シロは5年先を考えて整備
 施業後、うまくいけば3〜4年でマツタケが生える。次は、シロの管理である。シロは、なかなか円にならないそうだが、円にできれば発生本数も単位面積当たりの収量も多くできる。
「円にならないのは、阻害因子があるから。円の外側50㎝幅を毎年掻き採ってやる。ここが5年先のマツタケが発生する場所」と三上さん。「可能性があるけど今はだめだと言うことに挑戦する冒険意識と、絶えず何故だめなのかという問題意識を持っていることが大事」と話す。
 三上さんはマツタケの収穫では、大体1シロが生え揃うまで、採らない。その間にマツタケの傘が開き胞子を飛散してくれるからだ。傘が開いたマツタケは、ツボミの状態のものよりも値段は安いが、三上さんは将来を考えて、この収穫方法をとっている。

■マツタケの状況を彼岸花で確認
 マツタケは地温が19度になったときに、原基形成をする。原基とは、子実体(きのこ)のもとにある菌糸の結合した固まりをいう。原基形成の時期の雨や暖気の戻りなどが、マツタケの発生に影響を与えている。研究情報の中からこのことをキャッチした三上さんは、実際に地温19度になる日がいつなのかを確認するために毎日山に通って測定した。
 同時に地温が19度の時になる時の自然状況がどのようになっているのかも合わせて記録してきた。特に三上さんが注目したのは、彼岸花とモクセイである。場所を決めて、毎年観察してその年のマツタケの発生を判断している。
「わざわざ地温を測らなくても、誰もがひらめきやすい自然のものというのを意識して、秋を教えてくれるモクセイと彼岸花を見て、それで19度の時はどうなっているのかを探し当てた」
 彼岸花が一本立ちする頃が、地温19度だった。その頃に異常干ばつなどでシロが乾燥している場合には、シロを点滴法で湿らした。
 原基形成の時期に、土壌には湿り気が必要だという。これは三上さんが原木シイタケ栽培を通じて得た知識を応用したものだ。地中にチューブを挿し、水を点滴するというアイデアは、アカマツ林では土中に水が浸透しにくいということを、これまでの散水試験で経験していたからだ。
 点滴法も誰もが簡単にできるように、意識して行っている。
「これは林研活動の遺産だと思っているんだけど、自分だけが知っているとか、やっているというのではだめだと。大勢の人に情報提供して、僕がやっているのが本当に良いのか悪いのかというのを大勢の人から意見を求めよう。それで僕も進むが、相手の人もそこに何かを見出すだろうと。そんな気持ちでやっています」
 三上さんは、岡山県林業グループ連絡協議会の会長を平成6年まで4年間務めている。
 最後に、マツタケの良さを伺ってみると、次のような答えが返ってきた。
「マツタケに限らず、山というのはな、なにか発想を考えたら、楽しみがあるというか、遊びごころがあるというか。それを自分のものにするところが楽しい」