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事業アイディア

木材利用(建築・木工クラフトなど)

木質バイオマスエネルギーの利用促進が地域戦略
~バイオマスエネルギー利用拡大プロジェクト

山形県村山総合支庁(山形県)

山形県村山総合支庁は、平成14年度から全庁を上げて、管内のさまざまな課題をテーマとする21の戦略プロジェクトに取り組んでいる。その中の一つに、「バイオマスエネルギー利用拡大プロジェクト」がある。これまで未利用であった間伐材や林地残材、製材工場から発生する樹皮や端材を、木質バイオマスエネルギーとして有効活用できるシステムを構築しようとするものだ。  14年度から3カ年事業として展開しているこのプロジェクトは、木質ペレット燃料に着目し、初年度は管内で開発されたペレットストーブを使用したモニター調査や、ペレットの需要先の開拓、供給システムや製造プラントについての調査研究等が行われた。そして15年度には、ペレット製造施設が完成し生産体制が整う予定である。

山形県村山総合支庁「バイオマスエネルギー利用拡大プロジェクト」

目次

地域の課題は、未利用木質資源の有効活用

 山形県村山地域は、山形市など7市7町からなる。人工林率は34%であるが、県内木材供給量の約4分の1を生産し、また住宅着工戸数は県全体の過半数を占めているという。とはいえ、県外の大手ハウスメーカーの進出も著しく、地元製材工場や工務店は苦戦を強いられている。
 さらに平成14年12月からのダイオキシン対策にかかる法規制強化により、製材工場などが端材処理に利用してきた焼却施設が従来のままでは使用が禁止され、新基準に見合うような改造には、多大なコストを要する状況となった。また今後、製材過程で発生する樹皮(バーク)や端材の廃棄処理のコストも小規模事業者にとっては、大きな負担になると予測されていた。

 こうした状況のもと、県は平成13年度、「循環型社会を担う森林づくり」と「豊かな暮らしを広げる森林づくり」を基本方向とした10カ年の『山形県森林整備長期計画』を策定している。その中の「地域別整備計画」で、村山地域の推進する施策の重点的テーマの一つとして、「未利用木質資源のエネルギー利用促進」が挙げられている。
 村山総合支庁が進めている「バイオマスエネルギー利用拡大プロジェクト」は、この長期計画の中で位置づけられているものとも言える。

    

村山地域眺望(山形市西蔵王公園展望広場から)村山地域眺望(山形市西蔵王公園展望広場から)

農機メーカーがペレットストーブ開発

村山総合支庁森林整備課林産振興専門員・大谷教夫さんは、次のように語る。
 「木質バイオマスエネルギーの中で、なぜ私たちがペレットに着目したかというと、燃焼効率が高いこと、また形状や含水率が一定のため、ボイラーやストーブに燃料として自動供給ができるということ、薪ストーブなどよりは手が掛からない、これが一番のメリットだと思います。木質バイオマスのアルコール化や発電施設なども考えられますが、建設経費が膨大なこともあり、地域循環型を念頭に置くならば、木質ペレット製造が最も現実的な選択だと思います」

 木質ペレットとは、木材の端材やバーク(樹皮)等を粉砕し、圧縮成形した固形燃料だ。欧米などでは薪ストーブに変わるペレットストーブや、温水供給をするペレットボイラーなどが実用化されている。専用ボイラーを使用すれば給湯・冷暖房・温水床下暖房などとして利用することができる。
 これまでペレットストーブは、スウェーデンやカナダなどからの輸入品が販売されてきたが、平成14年2月、天童市に本社を置き、全国に営業所を持つ農機メーカー、㈱山本製作所がペレットストーブの試作品を発表した。
 同社環境事業部技術部長・松田和一郎さんは、
 「環境事業部の柱になるものとして開発を進めてきたペレットストーブは、結果的に行政の施策とも合致する形となりました。現在、村山総合支庁をはじめ、いろいろな方にモニターしていただいていますが、反響の大きさに驚いています。技術を結集してよりよい製品を出していきたいですね」と話す。

 村山総合支庁のプロジェクトとして、平成14年度にまず、木質ペレットの需要開拓のために、自治体や業界関係者からなる「大型施設向け需要開発部会」、および「個人向け需要開発部会」の2つの部会を設置し、需要量や供給システム、ペレット製造プラントの規模・場所・運営等に関する情報交換を行った。どちらの部会にも学識経験者として、東北芸術工科大学の三浦秀一助教授が加わり取りまとめ役を努める一方、セミナーの講師を引き受けるなど、産学官が連携して普及啓発にも力を入れている。

 「今回開発したストーブは、木部のみを使ったホワイトペレットだけでなく、全木をそのまま使った全木ペレット、樹皮を原料としたパークペレットなども使用することができます。発熱量(※)や燃焼量に違いはありませんが、灰の量はバークペレットが一番多くなるようです。灰の処理はやっていただく必要があります。ふく射式とペチカ型があるのですが、普及に適しているのはふく射式。こちらは平成15年の夏から量産体制に入り、年内に300台の生産を見込んでいます。遅くても10月までには販売を開始したいと考えています」
 生産されたペレットストーブは、同社の全国各地の代理店を通じて販売される。ストーブ販売には、燃料の安定的な供給体制が不可欠であるが、当面は販売代理店が購入者に対して木質ペレット供給のサポートを行うことになるという。

 また、村山総合支庁森林整備課の増川一臣さんは、「平成15年度には管内にペレット工場が完成します。輸送コストが掛かると安価で燃料を供給できませんので、地域循環型構築には地元に生産体制を整備することが不可欠です。『個人向け需要開発部会』には、地元の燃料店の方にも入っていただいています。灯油などと同様に扱っていただければと考えています」と言う。
 この部会には、地元ハウスメーカー2社(㈱シェルターと㈱ウンノハウス)が加わっており、住宅・ログハウスとペレットストーブのセット販売なども検討されているという。

    

(株) 山本製作所が開発したペレットストーブ。遠赤ふく射式(株) 山本製作所が開発したペレットストーブ。遠赤ふく射式

    

ペレットを投入ペレットを投入

    

タンクにおさめられた木質ペレットタンクにおさめられた木質ペレット

モニター調査で地元の意向を把握

 また平成14年度には、㈱山本製作所の協力を得て、ペレットストーブの需要を掘り起こすためのモニター調査が実施されている。ふく射式5台、ペチカ型5台を10名に3~5カ月の期間、無償貸与、燃料費の約半分を助成している。
 モニターは、需要開発会議の出席者の中から選ばれた。ストーブの設置場所は、各自が所属する事業所(設計事務所・材木店・製材所・ハウスメーカー・森林組合等)や個人住宅など様々。村山総合支庁のロビーにも置かれている。

 モニターの一人Yさんを訪ねた。Yさんは、任意団体であるリサイクル・ボランティアセンター工房「知音(ちいん)」代表で、これまでは廃食用油からの石鹸作りや、ソーラー発電システムによる市民共同発電所設立などの取り組みを行ってきた。山形市内のボランティアセンター事務所にはペチカ型ストーブが設置されていた。
 「ドイツのバイオマスエネルギー活用の取り組みなどを視察して、ペレットストーブにも関心を持っていました。でも、自分が暮らしている地域で開発されているのを知って驚きました。こんなに進んでいたのかと…。最初の1カ月間は、ふく射式を設置していたのですが、ボランティアセンターの会員間では、薪ストーブのような雰囲気があるペチカ型を希望される方が多く、製造に合わせて変更しました。ペチカ型は、ブラシなど7つ道具を使って毎日手入れしていますが、ふく射式は灰を片づけるくらいでよいので、一般家庭向きだと思います」と言う。

 増川さんは、「消費者の視点を大切にしたいという考えからモニターをお願いしました。この管内では行政と企業、住民が、どちら側が押しつけるでもなく自然に結びついているんです。それに大学(東北芸術工科大学)の理解と協力が凄く大きいんですよ」と感慨深げに語る。

協同組合山形ウッドエネルギー設立へ

 平成15年度には国の「木質バイオマスエネルギー利用促進事業」によって、貸付用ペレットストーブ50台の導入を進める。森林組合や協同組合のストーブ購入費を補助し、組合が貸付事業を行うものだ。また、国の同事業に県補助も加えて(総事業費約2億9000万円)、ペレット製造プラント建設に向けての動きも本格化している。実施主体となる協同組合山形ウッドエネルギー設立に向けて、チップ会社や製材業者、素材生産協同組合らによる発起人会が立ち上がっている。
 「発起人会議で詰めて、5月一杯までには協同組合を設立したいと考えています。15事業体程度が加わってくれるものと見込んでいます。ペレットストーブの販売に合わせて、何とか10月くらいまでには、ペレット工場を完成させたいのですが…」と大谷さん。

 寒河江市の予定地に、原料貯蔵庫や工場建物(計約1200㎡)、破砕機やペレット製造機等の導入する機械設備など、具体的な整備計画もほぼ定まった。管内から発生する未利用木質資源約7000tのうち2300tを利用して、年間当たりペレットを1800t、それにオガ粉300t、家畜敷料200tの生産を見込んでいる。

 「ペレット1800tは、発熱量で換算すると石油約90万l(リットル)。1戸が1年に1000l使用するとすると900戸分になります。管内は約18万世帯ですから、仮に200世帯に1世帯の割合で、ストーブを使用してくれれば、900戸分になり、生産と消費が釣り合うことになります。このくらいは応じてくれるのではないかと…。
 平成17年度までに580台のペレットストーブ販売を見込んでいますが、世帯数から言えば不可能な数字ではないと思っています」と、大谷さんは言う。

 管内には、サクランボやラ・フランス、モモ、リンゴなど、果樹栽培が盛んな地域が多い。毎年、大量の剪定枝が出ていることから、農協や栽培農家からもペレット工場への期待が高まっている。また㈱山本製作所は、農家のハウス暖房用や公共施設向けペレットボイラー開発も念頭に置き始めている。
 管内の市町村担当者を対象にしたペレットボイラー研修会が既に開催されており、自治体間の認識も次第に高まりつつある。平成15年度には、天童市や村山市の公共施設で、ペレットボイラーが導入される予定である。

※ペレット発熱量―約4300kcal/㎏。灯油発熱量-8900kcal/l。価格はペレット25~40円/㎏(但し、輸送量別途)、灯油は45円/L前後。

(全国林業改良普及協会 月刊『現代林業』2003年4月号より記事データは掲載当時のものです。)
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山形県山形県村山総合支庁森林整備課 電話:023-621-8283

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