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事業アイディア

地域づくり

「もやい通貨」で広がる出会い・助け合いの輪

水俣元気村女性会議(熊本県水俣市)

農山村の地域コミュニティとして昔から受け継がれてきたものに「結い」「もやい」がある。しかしこうした助け合いの仕組みが薄れてきたことを心配する農山村も少なくない。
そこで地域通貨を活用して、人と人の助け合いに重点を置き、活発に地域通貨を活用している取り組みとして、熊本県水俣市の水俣元気村女性会議の「もやい通貨」を紹介する。

水俣元気村女性会議「もやい通貨」(熊本県水俣市)

目次

地域通貨はやってみないとわからない

 熊本県の南端、鹿児島県と境を接する水俣市。海と山に恵まれ一つの川が一つの市で完結する豊かな自然環境を生かし、農林業、漁業のほか、みかん、お茶などの生産も盛んだ。  水俣市では、水俣病の苦い経験を生かし、徹底的に環境にこだわったまちづくりを展開し、世界に通用する「環境モデル都市」を目指している。また、平成13年9月に「元気村づくり条例」を制定し、「豊かな村づくり」「村のいい風景づくり」「交流」の3つを柱に、「人」「地域」「経済」が元気な村づくりを進めている。
 元気村女性会議は、その取り組みの一環として設立された。女性間の交流を促すことから元気な地域をつくろうという趣旨の下、主婦や農林家、漁師、その他市役所などに勤める女性が集い、地域通貨「水俣元気村もやい通貨」をはじめ、元気な村づくりを進める活動を行っている。そこで事務局である水俣市農林水産課元気村推進係の平生(ひらばえ)則子さんに地域通貨導入の経緯について伺った。

 「元気村女性会議は、女性の行動力を活かし目標に向かって動く団体として平成13年4月に設立されました。元気村づくりの考え方として、経済は、「貨幣経済」、「共同する経済」、「自給自足する経済」の3つあるということが根底にあり、「共同する経済」については「地域通貨」で取り組むことになりました。
 私が地域通貨を担当するということで、本を読んで研究しましたが、とにかくやってみないとわからないので、女性会議で取り組むことにしました。7月の女性会議において各自、自己紹介も兼ねて自分が何ができるのか述べてもらいました。8月には地域通貨についてメンバーに了承を得て、9月1日から使えるようになりました。
 当初は女性会議の方と彼女らの紹介者をあわせて、会員43名でスタートしました。現在は96名まで拡大し、そのうち女性は3分の2を占めています。もやい通貨のPRをしていくと、女性は楽しそうと聞いてくれますが、男性の多くはなぜか『なんだそれは?』という反応になるんですよ」

図 3つの経済と3つの豊かさ図 3つの経済と3つの豊かさ

会員になると10000結い分の紙幣と、もやい通貨メニューや自分用の通帳をはさんだファイルが渡される会員になると10000結い分の紙幣と、
もやい通貨メニューや自分用の通帳をはさんだファイルが渡される

だご(団子)づくりの風景。見知らぬ人も作業の輪にすぐに組み込まれ、知らぬ間にコミュニケーションが生まれるだご(団子)づくりの風景。
見知らぬ人も作業の輪にすぐに組み込まれ、
知らぬ間にコミュニケーションが生まれる

サービスだけを対象。仕組みはわかりやすく

 「もやい通貨」は、「人の関わりを新たに創り出していく」「お互いに支え合う」「村づくりを進める」を目的とし、単位は「結い」で、紙幣で100結い、500結い、1000結いの3種類がある。仕組みは、まず参加したい人が事務局のある農林水産課で「できること」「やってほしいこと」を記入して登録する。会員によるもやい通貨メニューが記された冊子をもらい、「できること」「やってほしいこと」を通じて、会員同士のやりとりを各自行う。

 ポイントは登録時に10000結いが支給される点とサービスのみを対象としている点。これは、もやい通貨が「共同する経済」を目指しているところに理由がある。
 現在のところサービスメニューの登録数は、200種類以上、延べで800程度あるという。新規会員のサービス登録情報等の情報誌を毎月月末締めで翌月10日に発行。基本は500/時間としている。
 「基本的に紙幣を利用しているのでマイナス残高は設定していません。券がなくなったらサービスの提供を通じて新しい「結い」紙幣を入手してもらいます。当初紙幣に有効期限を設定していたのですが、現段階では効果はまだまだと思っているので回収せず無期限状態となっています。ただ、最近、人によって慢性的に足りない人、貯まってしまった人が見えだしたので、いつか1万結いからスタートできるようリセットしようかなと思っています。とにかくわかりやすい仕組みからスタートして、より使いやすいように工夫していくことを心がけています」と平生さん。

知り合いが知り合いを呼ぶ、もやい通貨

 「地域通貨は、ちょっとしたことでも人に頼みやすいところが特長ですが、顔が見える関係にあるとさらに頼みやすくなるという面があります。そこで念に一度、芋煮会という形で交流会を開催したり、多人数で使える工夫をしています。また、会員同士のやりとりについて調査してわかったことなのですが、最初は知り合い同士でしかやりとりしていなかったのが、慣れてくると知り合いを飛び越えて新しい関係の中でやりとりが広がっていることがわかりました。この通貨が新しいコミュニケーションづくりに生きているのだと思います」と平生さん。
 これまで「梅ちぎり」や「みかんちぎり」など果樹農家での手伝いや、水俣病の語り部による講演、大豆蒔きなども行われ、参加者にとっては今まで知らなかった郷土について知ることができるとともに、お願いする方も自分たちのメッセージを発信するよい機会として好評だという。

水俣市内の集落でのだご(団子)づくり。水俣市内の集落でのだご(団子)づくり。
お手伝いの依頼者から「もやい通貨」をもらう参加者。
「ありがとう」の気持ちを込めてやりとりされる。

「もやい通貨」の実際の使われ方

 それでは実際にどんな使われ方をしているのだろうか。もやい通貨が使われるイベントの一つ「だごづくり」の会場を訪れてみた。この地区では毎年神社で1600個のだご(団子)を配るイベントがあり、地区内の老人会や有志の会でだごづくりを行っている。
 リーダーの宮本良郎さんがもやい通貨に登録をしたのをきっかけに、今年からもやい通貨で作業のお願いをした。事務局でも会員に情報を流したところ6名の会員が集まり、面識あるなし関係なくベテランのおばあさんの指示で有無を言わせず流れ作業に組み込まれる。作業終了時には何とも言えない充実感に包まれ、団子をほおばりながら話の輪ができる。地区の歴史、だごづくりのノウハウなどの話を通じて顔見知りが一挙に増える。「顔見知りが増えたことで、来年はさらにお願いしやすくなりますね」と宮本さんも嬉しげだ。

 だごづくりに参加した農林業を営む吉井恵璃子さんは、もやい通貨を最も活用している一人。市で林道舗装用の生コンを配送してもらえるのだが、高齢化で人が足りず何年も利用できなかった。今年はもやい通貨で4人手伝いに来てもらい4年ぶりに舗装ができたという。作家でもある吉井さんは、パソコンの入力作業は全てもやい通貨で依頼しているので、大変重宝しているという。

 平生さん同じ元気村推進係の草野舞子さんもこう語る。
 「この間、私と同期3人が浴衣の着付けを習ったとき、教えて下さった方は独りで暮らしている方だったのですが、『娘が遠くに住んでいていつも独りでおるけん、うれしかった』と私たちが来たことを大変喜んでくれました。着付けを教えてもらったのに逆に私にもできることがあるんだなと思いました」

 「今回のだごづくりもそうですが、会員のやってほしいという声を事務局が取り上げて情報を発信して行くことが大事です。会員はどうしても一人になりがちですから、私たちが動いていないと『ちゃんと動いてるんだろうか』と心配になるんです。事務局がその辺に気を配っていくことが大切です。
 実際、私たちが市の担当の立場だから時間、労力を費やすことができたという面もありますが、通貨発行主体はあくまで女性会議ですので、いずれは女性会議で全部できるようになれば理想だと思います。
 私たちはこのもやい通貨の取り組みを通じて、これは地域再構築につながることだと実感しています。現に会員の中から続けていきたい、本当に助かったという声が上がっていますから、これからもぜひ発展させていきたいですね」と平生さん。事務局として思うところを語ってくれた。

(全国林業改良普及協会 月刊『現代林業』2003年9月号より。記事データは掲載当時のものです。)
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