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トップページ > 農山村の背景情報 > 山で生きる・森をつなぐ仕事<part.3>

農山村の背景情報

08 川舟は山の文化のシンボルだ・荘司健さん(林業・紀宝町林研会長/三重)

 

08_荘治さん.jpg「エンジンが普及する前は、帆を揚げた川舟が行き交っていましたね。当時のように帆を上げてみましょう」と荘司さん。気まぐれな風が時折帆を孕(はら)ませると、川舟は熊野川の水面を滑るように進む。「川舟には、山にある様々な木が適材適所に使われています。本体はスギ、水押はケヤキ、棹や帆柱はヒノキ、寝梶木と呼ばれる竜骨はカシです」。
 荘司さんが住む集落は、大峯山に登る修験道の入り口として古くから知られていた。熊野川の沿岸に位置し、潮の満ち引きが水位に影響するほどに河口からも近い。海山の幸に恵まれた土地だ。対岸(和歌山県)には熊野本宮に続く道があるが、三重県側沿岸には昭和30年代初頭まで生活道路が無く、川舟が生活の足として重宝された。道ができてからも、川舟で対岸に渡って高校に通学するのが荘司さんの日課だった。
 東京での学生生活を経て郷里に戻り、実家の林業を継ぐ。祖父について、主に植林と保育を手がけた。結婚後、地元の林業会社に就職。山仕事全般の技術は、この時期の経験が土台になっている。20年勤めた後、家業の林業経営に復帰した。長年の経験の上に学んだ、非皆伐の長伐期施業を経営方針としている。
 あらためて身近な山に向かい合うと、かつていくらでもあった大径広葉樹などが少なくなっていることに気づいた。川舟文化を生んだ多様性が減少している。5年程前から、林床に芽生えた有用広葉樹を意識的に育て始めた。一方で紀宝林研の仲間と共に、「体感塾」という自然体験教室も計画中。川と山に囲まれた地域文化を継承する試みだ。地域を考える気持ちは、周囲の放置人工林にも及ぶ。昨年度は林研で、町内林道沿いにある手入れの遅れた林分の所有者に呼びかけを行った。山林所有者同士の共感が奏功し、団地化して中長期の施業計画を立てる段階に進み始めている。10年後には三重県で一番良い山林地域にしたいというのが仲間内で語る夢だ。(絵と文・長野亮之介)

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